嵐の夜に

今夜の雨にちなんだお話をひとつ。思い出話。

 

1年くらい前の今夜みたいな嵐の日、我が家の近所のセントラルパーク(一般的には染井霊園)に雷一閃。

轟音と灼熱した空気、漂うイオンの香りで近所に落雷したのはわかったけど、セントラルパークの墓石に落雷したのかなあ、くらいでその夜は終わった。

 

 

・・・・と思った夜半。聞き慣れないズルズルズルズルという音で目が覚めた。午前2時前後だったと思う。異音の正体を確かめに、僕は下の階に降りてみた。

 

異音は目の前の6番街からだった。目の前を、見慣れぬ風体の「何か」が歩いていた。その「何か」は、明らかに人の形はしてるものの、歩き方はひどくぎこちなく、歩む度に苦しそうなうめき声をあげる。

 

そこへ一人の見知らぬ女性が通りかかった。やおら、「何か」が存在を嗅ぎ付けたかのような素早い動きを見せる。「何か」は飢えていたのだ。そして「何か」の欲していたのは、あろうことか「人間」だった。女性はすぐに異様に気がついて逃げようとした。だが、「何か」の欲望の方がその速度に勝った。女性は「何か』の群れに捕まってしまった。

寝起きの僕の目に、その光景はまざまざと映しだされた。それは「行為」というには生々しく、血なまぐさい。「何か」が欲望を満たした跡には何も残ってはいなかった。女性はその痕跡すら残ってはいなかった。

立ちすくむ僕を、「何か」が見据えた。どうやらまだ空腹の連中がいるようだ。僕は一目散に部屋に逃げた。そしてチェーンを扉にし、ありったけの家具で居間を固めた。どこからともなく散弾銃が転げ落ちた。僕は腹を決めた。この危機に対して、雄々しく立ち向かう。そう心に決めた。「何か」は何者かわからないが、落雷の影響で目を覚ました何かなんだろう。こんなおぞましい存在は、一刻も早く消し去らねばならない。怯えと勇気がないまぜになった心のうちを整理していた。立ち向かう力を呼び覚ますため。

だが、「何か」は容赦しなかった。奴らは欲望を満たそうと部屋に押し寄せてきたのだった。

奴らの力は恐ろしく、扉も窓もすぐに破壊されてしまった。いつの間にか目を覚ました嫁が、愛用のガトリングガンで応戦する。僕も、散弾銃の引き金を引く。奴らは次々醜い肉片に変わる。

そんな戦闘がしばらく続いたが、如何せんただの民家。ガトリングガンと散弾銃の弾丸は尽き、止むなく個別的な方法で戦闘を続行していた。嫁のマグナムは恐ろしく的確で、無駄弾ひとつ撃たず目的を遂げていた。が、さすがに奴らも数が多い。ついに防衛戦は突破されてしまった。

奴らの狙いは、肉が多い僕。食いたければ食うがいい、自爆してやる!と思ったが早く、「何か」のおぞましい手が僕の頸動脈に伸びた。鈍い痛みが首に走った。そして、経験したことのない感覚が僕を襲った。すぐに気がついた。「血が吸われている」

老人だ。吸っているのは。枯れ木の様な腕を懸命に伸ばし、虚ろな瞳に恍惚の感情を浮かべている。

 

 

 

と、思うや否や老人の顔がどんどん若返っていく。

 

 

やばい、このままでは命を吸い尽くされてしまう。だが、老人の力は強く、振りほどくことができない。外を見たら、紫色の雲が棚引いていた。言い尽くされた台詞だが、最後に見たものが太陽なんていやだ!と心でつぶやいた矢先。

太陽の光に当たった奴らは次々砂になっていった。まさか、本当に奴らの弱点は太陽だった。無数にいた「何か」はいつの間にか雲散霧消した。

僕らは生き残った。

 

 

あの日のことは、決して忘れることはないでしょう。恐ろしい夜の出来事でした。

 

 

 

※一部フィクションが含まれています。

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