恐怖体験

静かで奇麗な聖蹟桜ヶ丘に落ち着いて早い物で2ヶ月。暮らしもようやく馴れてきた。近所のスーパーなんかも勝手が分かってきたそんな矢先、事件は起きた。

勤め帰り、いつも通りくたびれて近所のスーパー物色。探す酒と魚、刺身。そんな折。

スーパーのうなぎ売り場のすぐ側に、虚ろな目をした青白い顔の男?が立ってた。

奴は、他の客がうなぎを手に取る度に「ビクっ!」と身震いし、声とも呼気ともつかない音を口から吐くのだった。うなぎのお客さんの多い時期だから、その男は身震いしっぱなしに近い。と、そのうち、その男に異変が。

呼気に近かった「音」が「言葉」になってきたのだ。そして何かをつぶやいている。

「・・・カッテヨ・・・モ、カッテヨ」と聴こえる。意味がさっぱりわからない。

謎を見て飛びつかない訳にはいかない。僕もうなぎを手に取る振りをしてみた。様子見。しかしその男、やおら豹変。僕の方に向かってつかつか歩き、こういった。

「ねえ、アナゴも買ってよ」

何の事か一瞬分からず「ナンですか?」と聴き返す僕。これまでよりもさらに言葉に力を込めてその男は言った。

 

 

「アナゴも、買ってよ!アナゴ、美味しいんだよ!

なんでアナゴ買わないの?

ねえ、なんでアナゴ買わないの?

おかしいよ、君たち、うなぎばっかり。

アナゴも買ってよ、アナゴも!!!!!」

 

 

 

・・・スーパー中に響き渡る大音声。見るとその男、青白い顔にほのかに赤みがさしている。たぶん、この男はアナゴの親戚か何かなんだろう。僕は、ああわかったよ、アナゴは美味いよ。でも、今日はアナゴをつれて帰るだけの持ち合わせがないのだ、だから今日は勘弁してくれと言うと、「貧乏人め」という蔑む様な一瞥を僕に残し、再び「定位置」(うなぎ客監視体制)に戻った。

(さんまの蒲焼きがとても恨めしげな目でその男のことを見つめていたことに彼は気づいてはいなかった。これは後日別の災いの種となる。)

這々の態でレジを済ませると、またあの声。

 

「アナゴも、買ってよ!アナゴ、美味しいんだよ!

なんでアナゴ買わないの?

ねえ、なんでアナゴ買わないの?

おかしいよ、君たち、うなぎばっかり。

アナゴも買ってよ、アナゴも!!!!!」

 

 

あの男のアナゴへの妄執と、うなぎに対する僻みの理由はよく分からない。

 

 

しかし、うなぎ客に執拗に食い下がろうとする姿、じっと獲物を待ち構える姿に、僕はアナゴを見た。あれはアナゴ男だったのだ。

 

 

たぶん今日も、アナゴ男はうなぎ売り場で待ち構える。うなぎの客を。多分、イチバン大変な想いをする日。うなぎ客が最も多い日。土用の丑の日なんですから。

 

 

※一部虚構が含まれています。

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